うつ病とは
私たちは、日常生活のなかで、気分が落ち込んだり、憂鬱な気分になることがあります。この気分になること自体は人間に備わった自然の状態であり、病気ではありません。うつ病とは、こうした憂鬱な気分(抑うつ状態)が強く、それが2週間以上も続いてしまう疾患なのです。
うつ病は決して珍しい病気ではなく、日本人の場合、生涯有病率(これまでにうつ病となったことがある人の割合)は3~16%です(どこまで含めるかによって幅があります)。欧米諸国では女性や若年者に多く見られますが、日本では若年者から中高齢者まで、男女を問わず見かけられます。
うつ病の分類
身体因性うつ病
アルツハイマー型認知症や脳血管障害、脳腫瘍などの脳疾患、甲状腺機能低下症や糖尿病のような身体疾患、副腎皮質ステロイドなどの薬剤が原因となり、抑うつ状態が出現するタイプのうつ病です。
内因性うつ病
典型的なうつ病であり、通常は抗うつ剤を服用し、症状の改善を目指します。若年者などでは、治療しなくても一定期間内に症状が良くなるケースもあります。しかし、ご本人の苦しみなどを考えると、早めに治療をした方がよいことは言うまでもありません。
心因性うつ病
精神的な葛藤や心理的なストレスによって引き起こされるタイプです。ご本人自身は自覚していなくても、精神的なストレスが内在して起こることもあります。また、親しい人の突然の死、震災や火事、洪水などの災害によるストレス体験が引き金となるケースも少なくありません。
うつ病の主な症状
- 気分が落ち込んでいる状態が続く
- 何事にも興味がわかず、楽しめない
- 食欲の低下(または急増)があり、体重が大きく増減した
- 寝付けない、夜中や早朝に目が覚める
- 動作や話し方が遅い
- すぐにイライラしたり、落ち着きがなくなったりする
- 疲れを感じやすくなった、気力がわかない
- 自分に価値がない、または生きていて申し訳ないと感じる
- 仕事や家事に集中できない
- この世界から消えてしまいたいと思うことがある
など
うつ病には治療が必要
うつ病は、脳内の神経伝達物質が減少することなどによって起こる疾患です。すなわち、「心が弱いために抑うつ状態になったのだ」などと考えることは正しくありません。専門の医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切なのです。
主な治療法
休養
うつ病の治療というと、抗うつ薬などを用いる薬物療法が思い浮かぶかもしれませんが、すべての症例で薬を使用しなければならない訳ではありません。専門医が問診・検査を行い、それぞれの患者様の症状や生活環境、性格などを十分に考慮したうえで、一人ひとりにあった治療法を選択するのです。
そして、「まずは休養を優先すべきだ」と判断されるケースもあります。うつ病の患者様は心身のエネルギーが低下していますので、エネルギーを充電するためにも休養はとても重要な治療なのです。専門医から休養を勧められた場合は、思い切って仕事や家事、学校などを休むことも大切ですし、入院して休養することも選択肢の一つとなります。
精神療法
心理的な側面から病状の改善を目指す治療法です。専門の医師が心理カウンセラーなどと連携し、患者様と対話を重ねていくものであり、「認知行動療法」がよく行われます。
これは、日常生活で遭遇する様々な物事について、問題となっている行動を把握し、その問題に対する考え方や感情パターンを見つめ直すものです。その結果、自分の心をうまくコントロール出来るようになり、ストレスを感じにくい状態に近づけていくのです。
薬物療法
患者様それぞれの症状によりますが、一般的には抗うつ剤による薬物治療が効果を上げてくれます。三環系抗うつ薬、四環系、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)など沢山の種類があり、症状などを見極めて使い分けます。症例によっては、抗不安薬や睡眠剤などを併用し、症状の改善を目指すこともあります。
なお、抗うつ薬は、効果が出現し始めるまでに1~数週間かかることが一般的です。飲み始めた段階で効果を感じられないからと言って、服用を止めないようにして下さい。また、再発を防ぐには、症状が見られなくなった後も、完治させるため服用が必要なケースも少なくありません。薬をやめる時期については、専門医の判断に従うことが大切なのです。